ある日、家の前のだだっぴろい空き地が大家さんとおじいさんによって、いきなり開拓されはじめた。来る日も来る日もどんどん開拓していった。
『ん?いったい何が?』
しばらく見ているとどうやら農家のおじいさんが本気でやる気のようで、いろいろと植え始めた。
そして最近ようやく話をするようになった。
おじいさん曰く、『普通はみんなここに立ち入り禁止だけど、俺の前に住んでいるから、いつでも自由に出入りしなぁ。』てな感じで朝一番からメコンを差し出した。
いやー、朝からウイスキーはいいですよって断ると、これも世界共通か、まるで聞こえていなかったかのようにコップに注ぎだして、ロックで差し出した。大丈夫だからを連発するおじいさんに、いったい何が大丈夫なのかと聞きたかったが、かたくなにこのときばかりは断った。
少し寂しそうに見えたがどうやらあきらめたらしく、次々に『俺の育てているのはなぁ・・』と、説明し始めた。もともと年寄りのタイ語は聞きづらくもあり、そして歯が抜けているので、ようけいに聞きづらい。何度も聞き返しながらいつも会話が続くのである。
おじいさんは家族がいるが、なぜか単身赴任でその掘っ立て小屋に住んでいる。『泥棒が来るからな』とういって、農地の周りに柵を作り始めた。
『今まで泥棒に入られたことはあるんですか?』とたずねると、『いやない』ということ。夜も電気をつけ、泥棒を警戒しているおじいさんは今日も朝からいい香りを醸し出していた。
『んー、メコンの香りだぁ』